梅酒学 ー学術論文からレシピを考えるー
学術的アプローチで作ってみよう
各人、長年の経験と試行錯誤から導いた「美味しい梅酒の作り方」もあろうかと思いますが、インターネット上には、梅酒を真面目に研究された方々の論文が多く公開されています。
これを読み解き、科学的に正しい梅酒の作り方を考えてみましょう。
学術的に正しい梅酒の作り方(結論)
漬け込みから熟成までの工程は以下のとおり。
漬け込み
梅の実は冷凍しましょう。
酒に梅と氷砂糖を投入します。梅酒の品質成分は浸透圧差により溶出します。冷凍により果実の細胞が破壊されクエン酸・ポリフェノール等の品質成分の溶出がより進ようになります。梅を冷凍する場合は、梅1kgに対して糖400gを下限として投入すると良いでしょう。
冷暗所に保管しましょう。これにより発ガン性などが指摘されている「カルバミン酸エチル(EC)」の生成を抑制できます。
30日目
梅の実を取り出します。
およそ30日目で果実の重量は最小となり、有機酸や遊離アミノ酸の果実からの溶出もほぼ完了している状態になります。
90日目
漬け込み10日目から急激に進んんだショ糖の転化がひと段落します。そこそこ美味しく飲めるようになっているでしょう。
200日目
90日目以降、緩やかに進んでいたショ糖の転化がほぼ完了します。飲み頃です。
それ以降
貯蔵期間が長くなるにしたがって、色と味が濃くなりますが、爽やかさはなくなります。好みの問題ではありますが、女子短大生に一番人気は、「3年貯蔵の梅酒」だったとのことです。
貯蔵期間が1年、3年、12年をなるにつれ、梅の中から溶出したアミノ酸などと糖との間のアミノ・カルボニル反応によって色調が加速度的に増大します。
コクに関係する有機アミノ酸量増加し、まろやかさに関係する有機酸が減少します。梅酒中に含まれる有機酸の8割はクエンとリンゴ酸ですがが、クエン酸は漬け込み後2年で最大となり、その後はほぼ変りません。一方のリンゴ酸は1年で最大となった後にゆるやかに減少します。全酸量としては1~2年で最大となった後にゆるやかに減少しますが、この酸の減少は、これを基にエステル類が生成されたものと考えられます。この変化がこれが梅酒が”まろやか”になる要因と推測されます。
梅酒の香気成分は複雑な組成となりマイルドな風味に変化していきます。
随時追記していきます。
読んだ論文のご紹介
梅の下準備
冷凍した梅を使うといいよ。糖も少なく済んでヘルシーだよ。
梅酒については近年,健康志向から低砂糖化が進んでいる。しかし,一般に砂糖は果実成分を抽出する役割があるといわれている。本試験でも砂糖の添加量が多いほど有機酸,ポリフェノールが梅酒中に多く溶出された。しかし,果実 1kgあたりの添加量が0.6kgと0.8kgでは溶出量の差が小さいことから,砂糖量を減量しようとする場合においても,前処理せずに来実を漬け込む場合は砂糖を果実 1kgあたり 0.6kg程度添加するのが良いと考えられた。
一方,砂糖の添加量に関わらず,原料果実を冷凍した後に漬け込むことで梅酒品質が高まっており,品質を高める前処理法として冷凍の効果が認められた.また,冷凍することで、砂糖量が0.4kgで、あってもソルピトール以外の品質成分の抽出量が砂糖量0.8kgで漬け込んだ場合と同等であるため,砂糖量の削減につながる方法としても活用できると考えられた。
前処理をせずに漬け込んだ場合,収穫時期の遅い方が,液量,抗酸化能,有機酸,ポリフェノール抽出量が低い値を示している。しかし,一度冷凍して漬け込む場合と果肉と核を分けて漬け込む場合では,収穫始期の果実に比べて収護盛期の果実を用いた方がクエン酸,ポリフェノール抽出量が増加している。これは冷凍により細抱が破壊され,品質成分が搭出しやすくなったことや果肉や核に直接氷砂糖および抽出果汁が接触することに起悶すると考えられる。冷凍による前処理は液量,品質成分の抽出量,抗酸化能を高めていることから,糖抽出液の製造時の簡易な前処理法としても有効と考えられる.
加工方法の違いが梅酒およびウメ糖抽出液の品質に及ぼす影響
保管場所
冷暗所がいいね。
カルバミン酸エチル(EC)は、動物実験において発がん性、催奇形性、突然変異原性を示すことが知られている。また、一般に発酵食品中には0~数十ng/g含有されているが、なかでもアルコール飲料中に特に多く含有され、数ng/gから数μg/g含有するものがあることが知られている。
梅酒を用いて保管実験を行い経時的にEC含量を測定したところ、光の照射時間が長く、温度が高いほど生成量の増加が認められた。また、梅酒中のEC生成には梅の実に含まれる遊離シアンの関与も推察された。
モデル酒を作成し、経時的にEC含量を測定した。アルコール濃度40vol%と13vol%のモデル酒では40vol%の方がEC生成量が多かった。
梅酒中のカルバミン酸エチルの生成要因
飲み頃
漬けてから200日で飲み頃になるよ。
漬け込み直後にはショ糖の溶解だけが急に進み全糖度が上昇するが、酸度が低いためにショ糖の転化はほとんど起こらない。
4日目ごろから梅より検出されるクエン酸のために酸度が急増し、pH3.0に達するとショ糖の転化が起こり、10日から90日後まで急激に、以後は徐々に進行してほぼ200日後にショ糖は完全になくなる。
このように梅酒の熟成は常温ではショ糖の転化が終わる約200日までで完成し「飲み頃」の梅酒になると考えられる。
それ以後の貯蔵においては糖濃度はあまり変化せず、かえって梅の中から溶出したアミノ酸などと糖との間のアミノ・カルボニル反応によって色調が増大する。
梅酒熟成に関する研究 (第1報) : 梅酒熟成中の糖の変化
芳醇な香り
減圧水蒸気蒸留法ではアルデヒド類、酸類、アルコール類、エステル類などを含めて38成分、ヘッドスペース法では減圧水蒸気蒸留では認められなかった低沸点成分6種を含めて22成分を同定、定量した。成分の数は貯蔵に伴って増加し、ときにエステル類は成分の数、含有量ともに顕著に増加した。これは貯蔵中に梅の実中の有機酸が順次摘出され、多量に存在するエタノールとエステルを作るものと考えられた。最も含量の多い成分はbenzaldehydeであったが、その含有量は貯蔵中に顕著に減少し、同時にbenzoicacid、ethyl benzoate、およびbenzaldehydeから誘導されたacetalなどが増加した。これはbenzaldehydeが酸化を受け、さらにエステル、アセタールへと変化するものと考えられた。
以上により、梅酒の香気成分は、はじめ比較的単純な組成であったものが貯蔵により複雑な組成となり、マイルドな風味に変化すると考えられた。
梅酒の香気成分と貯蔵による変化
梅の取り出しタイミング
漬けてから30日したら取り出すと良いよ。
生梅を35%のエタノールに付け込んだ場合には果実重量と梅酒量はほとんど変化しない。これに対し、ショ糖が溶解している場合には初期には果実重量が減少し、約1か月で最小となるが、その後増加に転じ、徐々に平衡に近づいて行った。この変化は梅果皮の半透性によるものと考えられ、ショ糖含有液の場合には内外の浸透圧差により、初めはいわゆる「しぼんだ」状態になるが、約1か月経過すると果皮の半透性が失われ、梅酒が果実内に浸透するためと考えられる。またこの時期には有機酸や遊離アミノ酸の果実からの溶出もほぼ完了しており、この時期に果実を取り出すことで梅酒の収量を最大にすることができると思われる。
梅酒製造過程における果実成分の溶出と変化について
長期貯蔵による変化
3年が目安だよ。
1)梅酒中の遊離アミノ酸量は漬け込み後急速に増加し,1年貯蔵で梅酒と梅果実の遊離アミノ酸量はほぼ平衡に達した。梅酒中の遊離アミノ酸組成は1年貯蔵でアスパラギンが63%,アスパラギン酸が5%であった。12年貯蔵でアスパラギンは45%に減少し、アスパラギン酸は23%に増加した。
2) 梅酒中のショ糖は漬け込みから1年以内に転化が完了した。
3) 梅酒の有機酸は1年貯蔵まで増加し、それ以降ゆるやかに減少し、3年でほぼ一定になった。pHは貯蔵中2.8~3.0であった。
4) 梅酒の色は貯蔵が長くなるに従って濃くなり、吸光度が加速度的に上昇したことで明らかである。
5) 官能検査の結果は貯蔵期間が長くなるに従って味が濃くなり、さわやかさがなくなる。3年貯蔵の梅酒が有意に好まれた。
梅酒貯蔵中の遊離アミノ酸・糖・酸・色の変化
勘と経験と試行錯誤で作る梅酒
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